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女が支配する国 [西洋史・オリエント史]

女が支配する国

「この絵の女性が大巫女さんですか?」
「いや、この女性は“蛇使いの女神(Snake Goddess)”のつもりです。でも大巫女さんもちょうどこのような格好をして儀式に臨みますよ」
「実際に蛇を使うのですか?」
「いや、実際には蛇を扱いません。蛇はシンボルですよ」
「何の?」
「蛇は女神のパートナーだったんです。つまり、クレタでは女性と蛇が神聖であり、男性は神聖とされなかったんですよ」
「蛇と女神が人間を創り出したということですか?」
「そういうことです。古代の言語は蛇にイヴと同じ名を与えたんです。この名は“生命”を意味しました。しかも、最も古い神話では最初のカップルは女神と男神ではなく、女神と蛇だったんですよ」
「男は全く神聖とは見なされていなかったということですか?」
「その通りです」
「どうして男性は神聖とはみなされなかったのですか?」
「それを説明するには経血について話さないとならないんですよ」
「経血って何ですか?」
「Menstrual bloodのことですよ」
「そういうことをこのサイトで話してもいいのですか?」
「もちろんですよ。これは真面目な科学的な話ですからね。人類の最古の文明時代より、子宮の中で“凝結”し、嬰児となる女性の血の中には、創造の神秘的な魔力があると考えられていたんです。男は聖なる恐れをいだいて男の経験とはまったく関係のない、不可解にも苦痛を伴わずに流されるこの経血を生命のエキスと見なしたんです」
「生命のエキスですか?」
「そうです。月経を表す語の多くは不可解、超自然的、神聖、精気、神性というようなものを意味しているそうですよ」
「英語にはそのような意味はなさそうですね」
「そうみたいね。僕が調べた限りではmonthと関係あると言うことだけしか分かりませんでしたよ」
「でも経血がそれほど重要視されていたのですか?」
「そうなんです。たとえば、ニュージーランドのマオリ族は、人間の霊魂は経血からつくられ、血が子宮に留められたときに人間の形をとり、成長して人になるのだと信じていたそうです。古代アフリカ人は経血が固まって人間をつくると信じていました。アリストテレスも同様に、人間の生命は経血の“凝固”からつくられると述べていますよ。プリニウスは経血を『発生のもとになる物質』と呼びました。経血が凝固物となることが可能で、時の経過にしたがって胎動を始めて、成長し嬰児となるものだと考えられていたようです。ヨーロッパの医学校でも18世紀になるまで、誕生前に経血が果たす機能について、そのように教えられていたそうですよ」
「マジで?」
「これは僕がでっち上げた話じゃないんですよ。歴史の本に書いてあった事をかいつまんで話したまでのことです」
「でも、月経中の女性はとりわけ差別を受けましたよね」
「それは母系社会から父系社会になってからの現象なんですよ」
「つまり、ずっと昔の母系社会では女性は経血のために神聖だと見なされていたわけですか?」
「そのとおりです。東洋と西洋の古代社会では、経血には氏族や種族の生命を伝える媒体であると言う考えがあったので、女性にはより権威があったんですよ」
「そうなんですか?」
「ジューンさん、信じられない、と言うような表情を浮かべていますね」
「だって、ごく最近まで、例えばアメリカインディアンの女性など、ピリオドの時などは穢(けが)れていると言うことで小屋に隔離される風習があったんですよ。北米だけではありません。ヨーロッパでも、戒律の厳しいユダヤ教の一派など、男性は女性と握手しません」
「どういうわけで?」
「どうしてかと言うと、女性がピリオドかもしれないので、女性は穢れている。だから女性と握手しないと言うことですよ。女性の人間性を貶めていると思いませんか?」
「確かにそうかもしれない。女性の立場から見ればそう言いたくなるでしょうね。でも、それはさっきも言ったように母系社会から父系社会になったためなんですよ」
「母系社会というのはそれほど女性に権威があったのですか?」
「そうなんですよ。例えば、アフリカ西部の旧王国にアシャンティと呼ばれる国があったんですよ。この国の人たちの間では、女の子は“血”の運び手であるため、男の子よりも高く評価されたんです。つまり女の子が生まれることを望んだんです」
「ちょっと信じがたいですね。だって、中国でも日本でも100年ほど前までは“まぶく”風習があったでしょう?」
「良く知ってますね」
「それで、たいてい“まぶか”れるのは女の子と決まっていましたよね」
「そうです。父系社会では男の子のほうが大切ですからね。なぜなら、年を取ったら親は男の子に面倒を見てもらうわけですからね」
「母系社会では全く逆だったと言うわけですか?」
「そういうことです」
「いったい、誰がいつ母系社会を父系社会に変えたのですか?」
「ジューンさん、そんな怖い顔をして僕をにらまないでくださいよ。僕じゃないんだから」
「別にロブソンさんを責めているわけではありませんよ」
「それがクレタ島で起きたわけなんです」
「ほんとに?いつ頃ですか?」
「ミノア王の伝説が創られる前ですよ。ギリシャ本土からアカイア人がクレタ島にやってくる前です。つまり、紀元前14世紀までは母系社会だったんですよ」
「要するに、ギリシャ本土から父系社会のアカイア人がやって来て社会体制をすっかり変えてしまったと言うわけですか?」
「そうなんですよ。第二次大戦後、ソ連が東ヨーロッパに居ついて共産主義化したようなものです」
「それからずうっと世界的に父系社会になってしまったと言うわけですか?」
「そうです」
「マジで?」
「ジューンさんはマジが好きですね。僕の言うことが信用できませんか?」
「女性が神聖視されていた母系社会があったと言うことが、なんだか御伽噺(おとぎばなし)のようで。。。」
「でもね、ジューンさん、次の女たちをもう一度良く見てくださいよ」

Enthroned Birthing Goddess from Çatal Hüyük 5700 BC.
(The head was restored.)

“Venus of Malta”

“The Sleeping Venus of Malta”
(上のヴィーナスの写真はこの記事の一番下のリンクをクリックすると見ることができます)

「この“女神”たちは、実は母系社会を支えていた女たちを表わしているんですよ。見てください。堂々として頼もしい出(い)で立ちを!このぐらい逞しくないと一国を治めてゆけませんよ」
「でもちょっと太りすぎでは?」
「このぐらい貫禄がないと男を従わせてゆくことができませんよ。当然ですが、小さな諍いや小競(ぜ)り合いがあったでしょうからね。女プロレスラーぐらいの体力とバイタリティーがなかったら、いざと言うときに国をまとめてゆくことができません」
「つまり、これらの像は決して誇張したものではなくて、この女性たちの体型が一般的だったというのですか?」
「そう思いますね。なぜなら旧石器時代からこのようながっしりとした像が出土しているんですよ」

Venus of Willendorf (in Austria)
the famous venus of the Paleolithic Era (Old Stone Age)
(上のヴィーナスの写真はこの記事の一番下のリンクをクリックすると見ることができます)

「この右のずんぐりした像はいつ頃のものですか?」
「ヴィレンドルフのヴィーナスと呼ばれているのだけど、2万5千年から2万年前に作られたものだろうと言われています」
「このような女性が一般的だったというのですか?」
「少なくとも現在の女性のように瘠せてはいなかったと思いますね。とにかく太った女性が圧倒的に多い。太った女性ばかりをここで紹介しているわけではないんですよ」
「男性の像と言うのは出てこないのですか?」
「そう言われてみると、見たことないね」
「どうしてでしょうか?」
「つまりね、母系社会にあっては、前に言ったように男は神聖ではなかったんですよ。だから、女神の像はあっても男神の像はない。男神はいなかったから」
「ゼウスは?」
「あの神様は父系社会の神様なんですよ。上の女性たちから比べればずっと最近の神様なんですよ」
「ところで、男性はどのような体格をしていたのですか?」
「探したのだけれど、男性の像というのはなかなか見つからなかったんですよ」
「結局なかったのですか?」
「僕が調べた限りでは見つからなかった。その代わり壁画に男が描かれていましたよ」
「どんな壁画ですか?」

Cave painting in Lascaux, France.
(上の壁画はこの記事の一番下のリンクをクリックすると見ることができます)

「この写真がその壁画なんですよ。フランスのラスコーの洞窟の中に描かれたものです。上の一部を拡大したものが下に示したものです」
「この倒れている人物が男性というわけですか?」
「そうですよ、カリントウのようなおチンチンガ描いてあるでしょう?へへへへ。。。。」
「はははは。。。。(しばらくの間ジューンさんが笑います)。。。どうも、失礼いたしました」
「いいですよ。どんどん思う存分笑ってください。全くこれでは漫画ですよね」
「でも、これって、マジで男性ですか?」
「そうですよ。人間以外の生き物に見えますか?」
「でも、顔のあたりがちょっと変でしょう?」
「これはね、鳥のお面をかぶったシャーマンじゃないかと言う学者が居るんですよ。確かに、クチバシの長い鳥のお面をかぶっていると言われれば、そのようにも見えますからね。しかも、その当時はシャーマンが狩猟の安全と獲物(えもの)がうまく獲(と)れるように、まじないのようなことをしたでしょうからね」
「でも、これでは上の女性たちと比べてあまりにも簡単すぎますよ」
「だから、男はこの程度の存在でしかなかったんですよ。つまり女性は神聖だったから上のような女神の像が残っているのです。でも、男は全く価値のない存在だったので、このようにマッチ棒のような頼りない生き物として描かれているわけですよ。まさに女系社会だという証拠じゃないですか?僕はそう思いますね」
「生殖における男の役割ということは分かっていなかったのですか?」
「とにかく経血至上主義だったんですよ。人間は経血から生まれるということが当時の“科学”として信じられていたんです。だからこそ、女性は神聖だと考えら、そのために女系社会が保たれていたんです」
「しかし、男の役割ぐらい分かりそうなものじゃないですか?」
「でもね、外見上正常なカップルが結婚生活で満ち足りた性生活を営んでいても、10年間ぐらい子供が生まれない事って珍しい話ではないですよ。それでひょこりと10年ぐらいしてから生まれる、ということだってありますからね。現在のような科学知識で考えれば、生殖における男の役割という事については疑問の余地がありません。でもね、当時は誰もが太陽が地球の周りを回っていると信じていた時代ですよ。今のような医学知識は何もなかったんですよ」
「つまり、男は生殖に関して全く役立たずだと考えられていたわけですか?」
「そうですよ。そのことがこのページの一番上の“蛇使いの女神”によく表されていますよ。つまり、女神と蛇によって人間が作られたと信じられていたんです」
「男など必要なかったと思われていたのですか?」
「そうですよ。だからこそ、男はマッチ棒のような頼りない存在として描かれていたわけですよ。逞しい女神像と頼りない吹けば飛ぶような男の壁画。これらのことが、女系社会を雄弁に物語っていると思いませんか?」
「それで、クレタの女系社会は大巫女さんが王様のように君臨していたわけですか?」
「そうです。左の写真が大巫女さんと彼女に仕える男たちのフレスコ画です。紀元前1550年頃に描かれたものです」
「何をしているのですか?」
「すぐ下にクノッソス宮殿の想像図と、現在の宮殿遺跡の写真を示したのだけれど、この絵は宮殿の入り口の部屋の壁に書かれているものなんですよ。その一部です」
「行列の一部ですか?」
「そのとおりです。クレタ人も行列が好きなんですよ。なぜだか分かりますか?」
「分かりません。なぜですか?」
「エジプトの影響です。古代エジプト人も行列が好きなんですよね。何かというと行列をします」
「クレタとエジプトの間にはそれほどの交流があったのですか?」
「大有りだったんですよ。エジプト人が一番尊敬するのがクレタ人だったんです。エジプトとクレタの切っても切れない関係は、僕が小説の中でくどいほど書いています。ジューンさんは読んだんでしょう?」
「ええ、読みました」
「だったら、知っているでしょう?」
「そのようなことが書いてありましたか?」
「ありましたよ。どこを読んでいたのですか?エロい箇所だけを拾い読みしていたのですか?」
「そうじゃありません。でも、思い出せません」
「まあ、いいですよ。今度はじっくり読んでくださいね」

“The palace of Knossos (クノッソス宮殿想像図)”

“The ruins of the palace (クノッソス宮殿遺跡)”

“The procession to the Pharaoh's tomb (ファラオの墓へ副葬品を運ぶ行列)”
(上の写真はこの記事の一番下のリンクをクリックすると見ることができます)

「これはファラオの墓へ副葬品を運び入れる行列です。絵の書き方も良く似ているでしょう?」
「そうですね。ところで、大巫女さんはどうして胸をあらわにしているのですか?」
「儀式の時には例外なくオッパイを見せます。母系社会のシンボルですからね」
「でも、大巫女さんは体のほとんどを覆っているでしょう。なぜ胸だけを?」
「例えばね、ひ弱な男が背中を丸めるようにして歩いていたりすると体育の先生がハッパをかけるでしょう? “オイ、何だ、その格好は?もっと背すじを伸ばして胸を張って堂々と歩いたらどうだい” この大巫女さんはね、まさにそのように歩いているんですよ」
「つまり、女系社会だから、大巫女さんには権威がある。それで、わざわざ胸をあらわにし胸を張って正々堂々と歩いてゆく。そういうことですか?」
「そうだと思いますよ」
「でも、なんだかこじつけのようですね」
「だったら、この絵を見てどう思います?」

“The Madonna Litta painted in the 1480s by Leonardo da Vinci”
(上の写真はこの記事の一番下のリンクをクリックすると見ることができます)

「レオナルド・ダヴィンチによって描かれたマリア様ですね」
「そうです。どう思いますか?」
「イエス様である赤ちゃんにおっぱいを含ませているのですよね」
「そういうことです。この胸は母性を表していますよね。でも、上の大巫女さんの胸は母性と言うよりも母権あるいは女権を表しています。次の絵を見るともっと良く分かりますよ」

イギリス王 ヘンリー8世
(1491-1547)

スペイン王 チャールズ5世
(1500-1558)
(上の写真はこの記事の一番下のリンクをクリックすると見ることができます)

「これコッドピース (codpiece) でしょう?」
「良く知ってますね。さすがジューンさんですね」
「どういう意味ですか?」
「いや、別に意味を含めて言った訳じゃないですよ。ジューンさんの教養の深さを改めて知ったんですよ」
「なんだか、私、けなされているような。。。」
「いや、決してけなしているわけじゃありません。僕は素直にジューンさんの教養の深さに感心しているんですよ」
「このようなことで、感心しなくてもいいですよ。それで、上の写真から何が言いたのですか?」
「この二人の王様は明らかに父系社会の権威と言うよりも、むしろ“男”社会の権威をコッドピースで誇示していますよね。そう見えませんか?」
「そう言われてみれば。。。」
「でも、女性のおっぱいのようにむき出しにするわけには行きませんよ。でしょう?」
「(ジューンさん、笑いをこらえています。。。) それもそうですわね」
「そういうわけで、これまで見てきたようにクレタ文明と言うのは女系社会だと言うことが良く分かるんです。その女系社会の中心に大巫女さんが君臨していたと言うわけです」
「分かりました。それで、ロブソンさんの小説のヒロインですけれど。。。」
「アメニアさんのことね」
「ええ、そうです。そのヒロインは大巫女さんですか?」
「ジューンさんはすでに英語版を読んだんでしょう?」
「もちろん」
「だったら分かっているでしょう?」
「私はただ、これを初めて読む人の気持ちになってロブソンさんにお尋ねしているわけですよ」
「ああ、そうですか。分かりましたよ。じゃあね、ちょっと長くなりすぎたので次の機会に詳しく説明します」


この記事は次のページをコピーして編集したものです。

http://www.geocities.jp/barclay705/crete/lapis6.html

きれいな写真や絵がたくさん貼ってありますのでぜひ読んでみてください。


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